太田記念美術館 葛飾北斎と応為の浮世絵展

先日JR原宿駅より徒歩5分の距離にある太田記念美術館で公開中の「葛飾北斎冨嶽三十六景」を見に行ってきました。
館内は平日の午後であるにもかかわらず訪れた人たちでにぎわっており、静かな興奮で満たされておりました。

この作品群から北斎が使用し始めたベロ藍の深い藍色に引き込まれ眺める浮世絵は時にダイナミックな迫力をもって、時にダイナミックな嘘をつき今なお我々を大いに楽しませてくれます。

どの時代のエンターテインメントをも凌駕し人間の根っこにある楽しみを満たしてくれる北斎はまさに稀代の天才。
そして数々の浮世絵から伝わってくるのは天才の作品を百パーセントの状態で楽しんでもらえるように陰で支える、名もなき彫師と摺師のとてつもない緊張感であり、時代を超えて愛される芸術作品は生み出した人々が亡くなってもなお生まれたての赤ちゃんのように生き生きとしていました。

そして私が今回とても楽しみにしていたのは北斎の娘葛飾応為画「吉原格子先之図」。

先日NHKでドラマ化された「眩(くらら)~北斎の娘~」に合わせて二年ぶりの特別公開となります。

師であり父である北斎が線と円でこの世を描く天才なら応為は光と影でこの世を描く天才でした。
絵を鑑賞している我々も吉原の花魁を照らし出す光に引き込まれ、格子の外側から見ている人々と同じ視線で花魁を見ているような気分になります。
まさにこの親にしてこの子あり。
娘応為も師の北斎とはまた違った魅力の作品を生み出す天才でした。

その作品の隣には北斎の肉筆画、「源氏物語図」があり、それもまたち密に計算されつくした構図が美しくぐっと物語に引き込まれてしまいます。

天才親子の競演はとても素晴らしく、私は吸い込まれすぎて手前のガラスにぶつかりそうになりました。
よく見ればガラスにはいろいろな高さのところに指先ほどの丸い汚れが点々と付き、しばらくしてそれが引き込まれすぎた人たちの鼻がくっついた跡だと気づきました。
どうやら魅了されすぎてしまったのは私だけではなかったようです。

朝夕と少し肌寒さを感じ、夜鳴くは秋の虫たち。芸術の秋到来です。

今月はあと東京国立博物館で開催中の「運慶」展、上野の森美術館で開催中の「怖い絵」展とたくさんの美術品たちに埋もれてくる予定です。